日常生活で困りごとを抱える幅広い年代の相談者と、社会との架け橋役として活躍しているのが「社会福祉士」です。社会福祉士の受験資格を得るためのルートは複数あり、複雑に感じる方も多いでしょう。
働きながら、仕事と勉強を両立して社会福祉士を目指すことも可能です。今回は社会福祉士の概要、国家試験の合格率や受験資格の取得ルートについてくわしくご紹介します。
国家資格・社会福祉士とは
ここでは、社会福祉士の概要と社会福祉士国家試験の合格率の推移を見ていきましょう。
社会福祉士とは
社会福祉士とは、福祉や医療に関する相談援助に必要な専門知識・スキルがあることを証明する国家資格です。1987年制定の「社会福祉士及び介護福祉士法」を根拠法とし、登録申請すると厚生労働大臣より社会福祉士登録証が交付されます(法第28条)。
この登録をしていないと、たとえ国家試験に合格しても社会福祉士の名称を使用できません。
「社会福祉の増進に寄与することを目的(法第1条)」に、日常生活を送るのに困難を抱える次のような方々の相談援助を行うのが仕事です。
- 身体及び精神に障がいのある方
- 生活困窮者
- ひとり親の家庭など
相談援助の対象が、高齢者から子どもまで幅広いことから、活躍の場も多岐に渡るのが特徴です。相談内容をもとに公的支援制度や福祉サービスを提案し、相談者と行政機関や医療機関をつなぐ連絡・調整役としての役割もあります。
社会福祉士は福祉に関連するすべての相談を受けることから、次のような分野の幅広い知識が必要です。
- 保険・医療
- 高齢者福祉
- 障害者支援
- 生活保護
- 児童福祉など
活躍できる職場
社会福祉士の代表的な就職先は、次のとおりです。
- 高齢者施設
- 児童相談所
- 児童福祉施設
- 社会福祉協議会
- 地域包括支援センター
- 学校・学童
- 医療機関
- 障がい者支援施など
介護施設などで働く場合、相談業務のほか介護福祉士などの介護職を補助し、介護業務にも携わることもあります。
社会福祉士国家試験の合格率
社会福祉士を目指す方は、毎年2月上旬に実施される社会福祉士国家試験を受験する必要があります。
まずは社会福祉士国家試験の合格率を下表で確認してみましょう。多少の前後はありますが、合格率は概ね30%前後です。
年度 | 受験者数(人) | 合格者(人) | 合格率(%) |
令和3年 | 35,287 | 10,333 | 29.3 |
令和2年 | 39,629 | 11,612 | 29.3 |
平成31年(令和元)年 | 41,639 | 12,456 | 29.9 |
平成30年 | 43,937 | 13,288 | 30.2 |
平成29年 | 45,849 | 11,828 | 25.8 |
平成28年 | 44,764 | 11,735 | 26.2 |
同じ福祉系国家資格の介護福祉士の合格率は、概ね70%です。介護福祉士と比べて社会福祉士の合格率は非常に低いことから、難易度が高いといえるでしょう。
社会福祉士の資格取得ルート
社会福祉士を目指すためには、決められた資格取得ルートを経て受験資格を満たす準備が必要です。学歴や実務経験によって、12の資格取得ルートが用意されています。はじめに、社会福祉士の資格取得ルート一覧をご紹介します。
社会福祉士国家試験の受験資格(資格取得ルート) |
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法第7条 |
学歴や経験 |
履修科目 |
相談援助実務 |
短期養成施設等 (1年未満) |
一般養成施設等 (1年以上) |
第1号 |
福祉系大学等(4年) |
指定 |
なし |
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第4号 |
福祉系短大等(3年) |
指定 |
1年 |
なし |
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第7号 |
福祉系短大等(2年) |
指定 |
2年 |
なし |
|
第2号 |
福祉系大学等(4年) |
基礎 |
なし |
あり |
なし |
第5号 |
福祉系短大等(3年) |
基礎 |
1年 |
あり |
なし |
第8号 |
福祉系短大等(2年) |
基礎 |
2年 |
あり |
なし |
第9号 |
社会福祉主事養成機関 |
2年 |
あり |
なし |
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第12号 |
児童福祉司・身体障害者福祉司・査察指導員・知的障害者福祉司・老人福祉指導主事 |
4年 |
あり |
なし |
|
第3号 |
一般大学等(4年) |
なし |
なし |
あり |
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第6号 |
一般短大等(3年) |
1年 |
なし |
あり |
|
第10号 |
一般短大等(2年) |
2年 |
なし |
あり |
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第11号 |
特になし |
4年 |
なし |
あり |
「福祉系大学等(4年)」で「指定科目」を修了して卒業した方は、社会福祉士の受験資格を満たしています。しかしそれ以外の方は、受験資格を得るために別途トレーニングが必要です。
なお学歴については、「大学等」「短大等」とあるとおり、大学院や専修学校なども含まれます。詳しい範囲については、社会福祉振興・試験センターのサイトなどをご参照ください。
次に上記の12通りある資格取得ルートを以下の3つに分けて、詳しく見ていきましょう。
- 福祉系大学等で指定科目を履修した方向けの「福祉系大学ルート」
- 短期養成施設でのトレーニングが必要な「短期養成施設ルート」
- 一般養成施設でのトレーニングが必要な「一般養成施設ルート」
福祉系大学ルート(第1・4・7号)
最短で社会福祉士の受験資格を得られるのが、福祉系大学で「指定科目」を履修する福祉系大学ルートです。
福祉系の4年制を卒業していれば、いつでも社会福祉士国家試験を受験できます。福祉系の3年制短大卒であれば1年の、2年制短大卒であれば2年以上の相談援助の実務経験を積めば受験資格を得ることが可能です。
短期養成施設ルート(第2・5・8・9・12号)
同じ福祉系大学でも「基礎科目」を履修したケースは、短期養成施設ルートになります。4年制を卒業すれば、短期養成施設で必要なカリキュラムを履修するだけで受験資格を得ることが可能です。4年制卒であれば相談援助の実務経験は必要ありません。
一方、3年制短大卒であれば1年の、2年制短大卒であれば2年以上の相談援助の実務経験を経た上で、短期養成施設で必要なカリキュラムを履修する必要があります。
社会福祉主事養成機関(昼間課程、夜間課程)を修了して、2年以上の相談援助の実務を経験するのも1つのルートです。修業年限2年以上の学校が指定されているので、短期養成施設で必要なカリキュラムを履修するまでに4年以上の準備期間が必要となります。
対象となる職種で4年以上の実務経験がある方(第12号)は、短期養成施設で必要なカリキュラムを履修すれば受験資格を得ることが可能です。
一般養成施設ルート(第3・6・10・11号)
ここでは、一般養成ルートについて見ていきましょう。
大卒なら実務経験なしでも一般養成施設に入学できる
一般大学卒(4年制)の方は、実務経験なしでも一般養成施設等に入学できます。あるいは福祉系の大学に編入し「指定科目」を履修することで受験資格を得ることが可能です。
編入の年次は、すでに修得した単位によって3年次あるいは4年次かが決定されるので、大学に問い合わせると良いでしょう。
一方3年制短大卒であれば1年の、2年制短大卒であれば2年以上の相談援助の実務経験を経た上で、一般養成施設で必要なカリキュラムを履修する必要があります。
相談援助の実務を4年以上経験した方も、一般養成施設等で必要なカリキュラムを履修すれば受験資格を得ることが可能です。
実務免除制度もあり
実務経験を4年以上積んでから一般養成施設で学ぶケースでは、相談援助実習免除制度が設けられています。申請して相談援助実習免除者となれば、文字どおり実習が免除されるほか実習・演習費用も免除になるため、経済的な負担も軽減可能です。
資格取得ルートで実務経験として認められる施設と職種は、以下の5つの分野で細かく決められています。
- 児童分野
- 高齢者分野
- 障害者分野
- 保健所・病院などを含むその他の分野
- 現在廃止事業の分野
上述の5つの施設種類と職種の範囲は、社会福祉士国家試験の実施回ごとに少しずつ異なる場合があるので留意してください。現在廃止になっていても、かつてその事業・職種に従事していた経験は、受験資格の判定に必要な実務経験の対象です。
実際に自分の経験が実務経験として認められるかどうか、最新の情報をチェックすることが大切です。
働きながら資格取得は可能?おすすめの勉強法とは
社会人になってからでも、働きながら夜間や通信制で勉強して、社会保険福祉士の資格取得を目指すことが可能です。
働く環境に応じて一般養成施設を選ぶ
一般養成施設では、以下の3つの形態があります。働く環境に応じて、自分にとって適切な形態を選ぶことが大切です。
学ぶ形態 | 概要と注意点 |
通信コース | ・毎月レポートなどの課題を提出しながら知識を深める ・スクーリングを受講する必要がある ・スクーリングに通えない場合に、代替オプションが用意されているか確認する ・在学期間は約1年半〜1年10か月 |
夜間コース | ・フルタイムワーカーでも通える配慮がされている ・同じ境遇にある仲間と高いモチベーションを維持して学べる ・在学期間は約1年(2年の場合もある) |
昼間コース | ・夜間の仕事をしている方、あるいは学生が多く在籍 ・在学期間は約1年 |
短期養成施設では、通信コースがメインです。在学期間は9〜11か月と幅があるので、よくチェックしてみてください。
おすすめの勉強法とは
おすすめの勉強法は、対策問題集を活用して「まんべんなく」「繰り返し」勉強する方法です。
社会福祉士国家試験の出題科目は19科目もあります。合格基準は、問題の「総得点の60%以上の得点」かつ「すべての科目で得点」することです。「五肢択一形式」で出題され、150問を240分で解くことから、正確かつスピーディーに回答する必要があります。
なお社会福祉士の育成に関連する関係法令・通知等は、頻繁に更新される傾向にあるので留意してください。積極的な情報収集はもちろん、最新版のテキストや問題集で勉強を進めるようにしましょう。
資格取得ルートを確認し受験までの計画をたてよう
高齢化の影響などで、国家資格である社会福祉士はますます注目されています。しかし受験の資格取得ルートが細かく設定されていることから、事前に受験までのイメージを固めておくことが大切です。
社会福祉士の養成施設に入学するにあたって、学歴や相談援助実務経験などの要件を満たしているかチェックされます。受験資格を得るルートは12通りもあるので、どのルートが自分にとって最適なのかよく確認しましょう。